【SCM分科会開催レポート】「経営とSCM」~トップのリーダーシップがSCM改革の成否を分ける~
2026年1月23日、CIO Loungeは、株式会社アシスト大阪支社にて「第6回 SCM分科会ワークショップ」を開催しました。本ワークショップには、ユーザー企業、サポート企業、CIO Loungeメンバーら計50名が参加。「経営とSCM」をメインテーマに、SCMにおける経営トップの判断とリーダーシップの重要性について、多角的な視点から活発な議論が交わされました。
今回のテーマ設定の背景には、過去2回のワークショップにおける議論の積み重ねがあります。ユーザー企業とサポート企業の双方が『なぜSCM/DXはうまくいかないのか』という課題を深掘りする中で、経営陣の判断とリーダーシップの重要性が改めて浮き彫りになりました。
テクノロジーが牽引する「TPES」時代の経営戦略
矢島理事長は、オープニングの挨拶において、経営環境分析の枠組みである「PEST」の順序を見直し、テクノロジーを先頭に置いた「TPES」へと再編する必要性を示しました。テクノロジー(T)の変化が政治(P)や経済(E)に影響を及ぼす時代となっており、AIなどの技術動向を理解しない経営者は今後の環境に対応できないという考えです。AIはサイバー領域にとどまらず、ロボットなどを動かす「フィジカルAI」へと進化しています。この新たな潮流では、日本が得意とする「すり合わせ技術」や「メカトロニクス」が真価を発揮するチャンスがあると訴えました。

SCM改革を成功に導く「6つの要素」とパナソニックの事例
SCM分科会活動報告においては、まず過去2回のワークショップで議論した内容を振り返り、SCM改革が失敗しがちな要因として、標準プロセスに合わせられずカスタマイズが増えてしまう「Fit to Standard の形骸化」や、SCM部門が正当に評価されにくいといった「組織間の壁」などが挙げられたことを再確認しました。
さらに、パナソニックのSCM改革事例を紹介し、トップマネジメントの強いリーダーシップのもと、「破壊と創造」を掲げて月次管理から週次管理へと移行し、週次での顧客納入を実現した取り組みを説明しました。加えて、グローバル展開においては、各拠点の成熟度が大きく異なることから、一律導入ではなく、9段階の成熟度レベルに応じた段階的な導入支援(アセスメント)を行った点にも触れました。
また、プロジェクト成功の6つの要素として、以下のポイントが示されました。
- トップのリーダーシップ(最重要)
- 危機意識の共有
- あるべき姿の明確化
- 短期的成果(Quick Win)
- 推進体制
- コミュニケーション
【理事長対談:ローム株式会社 相談役 松本功氏】リーダーが決断すべき「標準化」と「自社らしさ」の境界線
本セクションでは、コロナ禍の始まりと創業者の逝去が重なる激動期に社長へ就任した松本氏が、危機下でどのように意思決定を行い、SCM改革を推進したのかが語られました。要旨は以下の通りです。
最大の課題は、需給の急変に対する「見えなさ」であり、どの生産ラインの停止がどの顧客に影響するのか即座に判断できない状況でした。これを打開するため、生産・販売・物流を統合するSCMプロジェクトを立ち上げたものの、在庫確保を優先したい営業部門と効率を重視する工場との対立が表面化しました。
さらに、基幹システム刷新で提示された「Fit to Standard」については、自社の強みを損なうのではないかという葛藤がありました。しかし、差別化に直結しない業務は標準化・自動化し、競争力の源泉となる領域は守るという方針を明確にしました。
また、EV市場の減速に伴う投資判断の誤算を教訓に、営業情報に依存しすぎず、市場や技術動向を主体的に読み解く「アプリケーション・マーケティング力」の必要性を強調しました。

【パネルディスカッション】現場に根ざしたSCM実践と「計画・実績」のギャップ管理
本パネルでは、パナソニックや住友グループ各社で豊富な経験を持つ遠藤氏を迎え、矢島理事長、本田リーダーと共に、グローバルな現場におけるSCMの実践と「計画と実績」の乖離(ギャップ)をどう管理すべきかについて、深い議論が行われました。

遠藤氏が提示した、実務に即した改革のポイントは以下の通りです。
1. BtoB特有の難しさと、IT・BIによる「見える化」
BtoC事業では自ら需要を創出し生産を主導できる側面がありますが、自動車OEMなどのBtoB事業では、顧客側の計画に従属せざるを得ないため、頻繁な変更への即応が極めて困難であるという実情が指摘されました。 特に海外拠点では、日本的な「暗黙の了解」が通用せず、不都合な情報ほど現場から上がりにくいという課題があります。これを打破するため、価格変動が利益に与える影響などをリアルタイムに把握できる、IT・BIを活用した「見える化」の推進が不可欠であると説きました。
2. 「計画は外れる」ことを前提とした柔軟な運用
遠藤氏は「計画は必ず外れる」という前提に立つことの重要性を強調しました。追求すべきは計画の精度そのものではなく、計画と実績の乖離を週次・日次で緻密に監視し、迅速に在庫や生産を調整する「運用のスピード」にあります。その具体的な手法として、営業予測の変動を可視化する「Dチャート」の導入事例を紹介。予測のブレを客観的なファクトとして示すことで、部門間の相互理解と改善を促す仕組みを構築しました。
3. 質を問う「筋肉質な在庫管理」と変革を担う人材
在庫管理においては、単なる総量ではなく、在庫を「不動・戦略・回転」といった「質」で分類し、それぞれの妥当性を厳格に問い直すことで、無駄のない筋肉質な体制を実現しました。議論の締めくくりとして、こうした改革を真に支えるのは、現状に疑問を持ち、データを武器に自ら変革を推進できる「人材」の存在であると、その重要性が示されました。
【グループディスカッション】 現場と経営を繋ぐ

90分間にわたるグループディスカッションでは、ユーザー企業とサポート企業が混ざり合い、現場の切実な課題から経営のあり方まで、多角的な視点で熱い議論が交わされました。各チームから報告された主要なポイントを、以下にまとめます。
<Aチーム:運用の徹底と柔軟な適合>
• Fit to Standardの再定義: 標準(Standard)に合わせることは「0か1か」の二択ではなく、自社の実態に即して柔軟に適合させることが肝要である。
• 徹底したギャップ管理: 計画を立てるだけでなく、計画と実績の差異を定期的に追い続ける継続的なモニタリングが、運用の成否を分ける。
<Bチーム:経営層の理解とデータによる説得>
• リテラシーの向上: 意思決定を担う経営層が、SCMやITに対するリテラシーをさらに高める必要がある。
• ROIの可視化: 抽象的な議論ではなく、投資対効果(ROI)をデータで可視化し、ファクトに基づいて経営層を動かしていくアプローチが不可欠である。
<Cチーム:人材育成と現場からのボトムアップ>
• SCM人材の価値向上: SCMを担う人材の育成に加え、その役割を適切に評価する仕組み作りが急務である。
• 強みの再定義: 自社の「真の強み」を改めて定義した上で、現場が抱える課題を経営層へダイレクトに届けるパイプ役としての機能が求められている。
<Dチーム:全体最適と「自社らしさ」の追求>
• トップによる意思決定: 「売上を重視する営業」と「在庫削減を目指すSCM」の間で起こる目標の不一致(トレードオフ)は、現場では解決できない。トップの判断による全体最適化こそが必要である。
• Fit to Business: 標準化の先にある、「自社らしさ」を追求する「Fit to Business」の視点こそが、競争優位性の源泉となる
まとめ
本ワークショップを通じて、SCMを成功させるためには、経営トップのリーダーシップ、標準化と自社らしさのバランス、そしてデータに基づいた迅速なギャップ管理が不可欠であるという結論に至りました。
最後に、遠藤氏は「SCMはグローバル競争を勝ち抜くための根幹である」と強調し、矢島理事長は「手段を目的化せず、会社の使命に立ち返ることが重要である」と結び、盛況のうちに閉会しました。(執筆:本田)

