IT投資を成功に導く「三位一体」のデジタル変革
現在、私はSI企業やソフトウェア企業の顧問として、営業サポートの仕事に携わっています。65歳を過ぎてもこのような形で仕事ができるのは、これまでの仕事を通じた現場経験とそこで出会った方々のおかげです。そこで本コラムでは、SI企業、製造業との合弁会社、ソフトウェア製品ベンダーにおける経験から得た気づきをお伝えします。
ポイントは「三位一体の視点/信頼」「本質(背景)を知る」。そして単なるシステム導入に留まらず、現場の働き方や考え方を変える取り組み(IoT化やデータドリブン経営)を進め企業様のデジタル変革の成功に繋げていくことと考えます。なお三位一体の三位とは、システム導入に関わる三者のことであり、具体的にはユーザー企業・SI企業・ソフトウェアベンダー、そして経営層・IT部門・現場部門です。
SI企業時代―三者の信頼が成功の鍵
社会人のスタートは、製造業研究部門でのソフトウェアを担当でした。その後、国の研究機関で約5年間、バーチャルリアリティ(VR)技術の研究支援に携わりました。研究所には通信業や製造業の研究員が多数集まり、「失敗も成果の一部」として新しい試みに挑戦していました。研究現場では、企業文化の違いや意思決定のスピードの差などを肌で感じることができ、得がたい経験ができました。
その後、SI企業の現場で主にERPの営業から導入支援までを担当しました。成功事例もあれば、思うように進まなかったプロジェクトもありました。あるプロジェクトではユーザー企業も我々SI側も課題の整理・理解が不十分なまま導入を進めてしまい、手戻りや調整に多くの時間を要しました。成功した案件ではユーザー企業、SI企業、ERPベンダーが定期的に課題を共有。常に三者で意識や意思を合わせるように図っていました。
こうしたERPの仕事から学んだのは「三者の信頼関係が成功の鍵」であるということです。実際にはそう単純でも簡単でもありませんが、可能な限り率直に課題を出し合い、前向きに議論できる関係を築くことが、品質と満足度の両立に欠かせないと感じました。
製造業とSI企業の合弁会社時代―ユーザーの“真意”を知る
40歳を過ぎた頃、製造業とSI企業の合弁会社に出向し、約5年間、役員として経営に携わりました。製造業本社のIT企画部門の方々と密に意見交換する機会があり、システム投資の背景や予算化の考え方、意思決定のプロセスを理解することができました。システム開発では厳しい局面も多々ありましたが、合弁会社の立場から本社のユーザー側の方々と本質的な課題を議論・共有し、軌道修正を図り無事に完了、安定運用繋がりました。
これらの経験から、ユーザー企業が「システム化の背景や目的」をどれだけ具体的に開発側へ伝えられるか、そしてSI企業側も「表面的な要件」に留まらず、色々な立場の人(経営層、IT部門、現場部門等)の思いを聞くことによりシステム化の本質を知ることが重要で、それがシステム化後の齟齬をなくすことに繋がると痛感しました。ヒアリングには時間がかかりますが、その時間こそがプロジェクトの成否を分ける要素だと感じています。
また、SI企業から見て「なぜこんな無茶な要件を?」と思う要件がでてくることもありました。それもシステム投資や意思決定の背景を知ると、推察できるようになります。「無茶です」と言っても議論が収束するわけではありませんので、原点に立ち返るなど別の方法を考えるようになります。製造業との合弁会社だからこそ得られたノウハウです。
ソフトウェアベンダー時代―製品の“思い”を伝える
その後、仕事をすることになったソフトウェア製品ベンダーでは、SI事業とは異なる視点でビジネスに向き合いました。技術部門の方々は、最新テクノロジーを取り込みながらユーザーの要望を的確に反映する工夫をするなど、まさに「進化に挑み続ける現場」でした。私の所属した営業部門ではパートナー企業との協業やユーザー企業の現場への訴求方法を模索する毎日でした。
このとき実感したのが、ソリューションの価値を最大限に活用して頂くことの難しさとやりがいでした。ソリューション、すなわち製品には開発の背景や込められた思いがあります。これを適切にユーザーにお伝えすれば活用度は大きく向上します。しかし現実にはなかなか難しく、ソリューションを導入いただいても特定機能だけの利用に留まるのが実情です。
一方、近年ではデータレイクを構築しても、その先の活用が進まないという課題もよく耳にします。背景には「活用の目的が不明確」「データが部門で分断」などの課題があります。この解決に向けデータ関連のベンダー各社は、自社と他社のソリューションを連携させてユーザーの立場でデータエコシステムを形成する取り組みを進めています。IT部門の皆様には固定的な考えに陥ることなく積極的に各社に相談することをお薦めします。
IVI(Industrial Value Chain Initiative)での学び
ソフトウェアベンダー時代には、IVI(Industrial Value Chain Initiative)に参加する機会がありました。IVIは産学官が連携して2015年に設立した団体で、「つながる工場」や「つながる現場」を目指すなど製造業のバリューチェーンをデジタル化する取り組みです(https://iv-i.org/)。私はワーキンググループの一員として、製造メーカーやIT企業の方々とチームを組み、工場を訪問して課題の発見から解決策の検討・実施までを行いました。
現場責任者やライン担当者、工場長など様々な立場の方々にお会いし、それぞれの工場特有の環境や課題を体感できたことは貴重な経験でした。というのも成功している工場には、やはり成功している理由があることを理解できたからです。例えば、製造に関わるデータを朝会や夕会などで共有して意見交換する、またその場で出た意見をその場で入力するなど、現場を改善する取り組みを続けていることが共通点です。
加えてデータで物事を語ることが習慣化しており、会議で共通の指標をもとに議論することも成功している工場に共通でした。こうしたことは、最終的には現場改善の積み上げが企業収益にどのように結びつくかを可視化し、業績への貢献を実感できるようにしたり、データドリブンな経営に発展させたりする取り組みへとつながっていくように思いました。
最後に―経営と現場をつなぐ視点を
このように、システム導入やデジタル化の成功は、技術だけではなく「関わる方々の理解と共感」に支えられています。そして、企業が進化することが成功です。それにはトップの意思が重要なのはもちろんですが、現場の風土をどう変えるかが実際の難所です。特にIoT化やデータドリブン経営は、単なる技術導入ではなく、現場の働き方や考え方を変える取り組みでもあります。そこに寄り添いながらこれからも伴走できればと考えております。
筆者プロフィール

大内 利明(おおうち としあき)
1983年、CSK(現 SCSK)に入社。プログラマー、システムエンジニアを経てERP導入の開発部門を担当。その後、営業/営業企画部門を担当。在職中に松下電器産業とCSKの合弁会社M&Cビジネスシステムズに出向し、役員として各種の取り組みを推進。2015年に退職。同年、ウイングアーク1stに入社し営業支援に携わる。2025年に退職し、顧問として2社で活動中。趣味は旅行とお酒、サッカー観戦、ゴルフ。
