中期システム化計画を成功に導く10の実践ポイント─変化の激しい時代にIT部門が持つべき視点とは?
クラウド、AI、セキュリティ脅威、働き方改革、開発手法の多様化が進む中、IT環境は短期間で大きく変化しています。そのような環境だからこそ、「3〜5年の中期システム化計画に意味があるのか」と感じてしまう方も少なくありません。しかし、変化が激しいからこそ、中期計画は企業の進むべき方向を示す“羅針盤”としての役割を持ち続けています。
本稿では、中期システム化計画を策定するうえで欠かせない10つの視点を、実務の現場で培ってきた経験をもとに紹介します。
1.経営との信頼関係を築くことが計画の前提条件
中期システム化計画は、単発の議論で決まるものではなく、人材・体制・予算といった重要な要素も日頃の信頼の積み重ねを通じて初めて認められていくものです。IT部門から見て「経営はシステムを理解していない」と感じる場面は多いものですが、それは経営陣への説明努力が不足している場合も少なくありません。
誤りのない運用、障害発生時の迅速な対応、再発防止策の徹底に加え、システムの開発や導入といった本来業務を着実に遂行することが重要です。こうした“当たり前の積み重ね”が、5〜10年かけて経営との信頼関係を育てていきます。そして、その信頼を土台にしながら、経営の論理で語り、企業の方向性と整合したIT投資であることを示していく姿勢が重要です。
2.全社員が満足するシステムは存在しないと理解する
システム化計画で最も陥りやすいのが、「全社員の要望を均等に取り入れようとする」姿勢です。多様な立場の社員から要望を集めると、相反する意見や過剰な要求が必ず出てきます。それらすべての要望を平均点に寄せるように“10点中5点”に丸めてしまうと、誰も満足しないシステムが完成し、長期的な不満の温床になります。
一定規模のシステムでは、全社員が満足するシステムは実現できません。重要なのは、コア業務に集中してシステムを構築し、周辺機能は段階的に外付けで整備するという割り切りです。これにより、コストと満足度のバランスを最適化できます。
3.ユーザー要望は御用聞きではなく“編集”する
ユーザー要望の収集は重要ですが、単に羅列するだけでは計画にはなりません。IT部門は「どのようなシステムを作るべきか」という自らの意見を持ち、それに基づいてユーザーと議論しながら要望を編集し、優先順位をつけていく必要があります。
言われたことをそのまま受け取る“御用聞き”のような姿勢で策定した計画は膨張し、実現性が失われます。IT部門は、企業全体の最適化を見据えた“編集者”として振る舞うことが求められます。
4.老朽化システムの更改は“攻めの投資”と捉える
老朽化したシステムの更改は、単なる維持ではなく、ビジネススピードを高める絶好の機会です。従来の投資効果は効率化や品質改善が中心でしたが、これからは拡張性とスピードが最重要テーマになります。
老朽化システムの改善は、新規事業の立ち上げや業務改革を柔軟かつ迅速に実行できるビジネス基盤をつくる“攻めの投資”と捉えるべきです。
5.セキュリティは「侵害発生を前提とした備え」を重視する
セキュリティ投資は永遠の悩みどころであり、中期システム化計画でも難題の1つです。慎重になりすぎると、クラウド活用をはじめとして、データ利活用や業務改革といった取り組みを過度に萎縮させ、ビジネスのアジリティや柔軟性を損ないます。一方で、投資を怠れば重大なビジネスリスクを抱えることになります。
重要なのは、セキュリティインシデントは完全には防げないという前提で備えることです。セキュリティ侵害発生後の復旧は「気合と根性」ではどうにもなりません。サプライチェーン全体を見据え、海外クラウドの法規制も踏まえた影響分析やセキュリティ訓練、BCP対策が不可欠です。加えて、クラウドを前提としつつも、障害発生時にはオンプレミスが頼りになる場面もあることを意識しておく必要があります。
6.データ整備は企業価値向上の基盤となる
データは企業の価値そのものです。しかし、その品質を高め、正しく管理できる状態に整えるためのデータ整備は面倒な作業であるため後回しにされがちで、気づけば使われないデータが蓄積し、価値を失っていく企業も少なくありません。
使えるデータ・使えないデータ、利用条件や権限を整理し、今後発生するデータを新しい規約で管理する仕組みを整えることが、AI時代とも言われる今日、経営判断の精度とスピードを高め、市場競争力を向上させます。
7.作る技術から使う技術へ発想を転換する
競争領域のシステムは現場主導で自律的に構築し、非競争領域はパッケージやサービスを活用する“脱自前主義”へ転換すべきです。
多くの企業は結果としてこれを実行しているように見えますが、中期システム化計画の策定において検討するべき事柄でもあります。すべてを内製しようとする姿勢はスピードと柔軟性を損ないますが、逆にパッケージやサービス利用に偏りすぎると、企業独自の競争力をそぐリスクもあります。領域ごとに最適なバランスを見極めることが重要です。
8.システムパートナーとはWin-Winの関係を築く
システムパートナーは下請けではなく、共に成長する存在です。開発だけでなく、運用・保守・改善提案など幅広い領域で協働するため、長期的なWin-Winの関係構築が結果として自社のシステム品質を高めます。
さらにパートナー企業の要員育成に対しても積極的に協力する姿勢を持つことで、双方の技術力が向上し、より強固で持続的なパートナーシップを築くことができます。
9.グローバル化を見据え、欧米の事例を研究する
日本のシステムは日本の事情に最適化されている一方で、グローバル展開には制約が多いのが実情です。ドメスティックな日本のシステムだけに目を向けるのではなく、世界全体で進むIT進化と並走するためにも、グローバルのシステムやアーキテクチャの研究が欠かせません。
国内の横並びではなく、欧米(特に米国)の先進事例を積極的に学ぶことが、将来のシステム戦略に大きな示唆を与えます。
10.中期システム化計画を支えるIT要員
中期システム化計画を実現するためには、企画力を持つIT要員の存在が不可欠です。そうした企画要員は、IT予算管理やルール整備といった事務的な管理業務にとどまる役割ではありません。ビジネスアナリストとして業務を理解し、上級SEとして技術を理解したうえで、企業のシステムの方向性を描く役割を担います。AI活用やデータ管理、セキュリティといった将来の競争力に直結する領域も、この企画要員が中心となって推進すべきです。
また、AI時代においては、広義のIT人材は、実務の現場でも全社員の2割程度は確保することが効果的だと感じています。これは、開発やインフラだけでなく、セキュリティ、データ管理、事務改革、全社共通のIT基盤(人事・経理・総務などを支えるIT)など、企業のデジタル基盤を支える役割が急速に拡大しているためです。
採用においては、100%マッチする人材を求めるのではなく、5〜7割程度の適合率を目安にしつつ、企業文化への適応力や成長性を重視することが現実的です。外国人採用を行う場合は、企業の物理・情報セキュリティの事前整備が前提となります。また、海外SEとの協業経験を持つ日本人SEを配置するなど、受け入れ体制の準備も欠かせません。
育成についてもこれまでとは異なる取り組みが求められます。個人別の育成カルテを作成し、定型的ではなく各個人に見合った育成を行うことで、社員一人ひとりの成長実感と企業への信頼感を高めていくことが重要です。
育成カルテにはITスキルや業務知識だけでなく、コンプライアンス、人事・経理の理解レベルなども記録し、毎年の評価を行なうと共に育成計画に反映させます。部署ローテーションによって業務経験の領域を広げることも有効です。一方で、最終的にはIT部門に戻す仕組みを整え、専門性を継続的に高める環境を維持する必要があります。
おわりに─中期計画は“未来を描く力”で決まる
中期システム化計画は、単なる投資計画ではありません。企業の未来をどう支えるかを示す戦略文書です。
経営との信頼関係、ユーザー要望の編集力、データとセキュリティへの本気の取り組み、そして人材戦略。これらを意識することで、中期計画は単なる計画書から、企業の未来を動かす実践的な武器へと変わります。
筆者プロフィール

横道 伸二(よこみち しんじ)
1984年、日興證券に入社。証券システム開発を経てロンドンに赴任、システム企画を担当。その後、国際投信投資顧問で資産運用システム(OMS)更改やシステム化計画立案に従事。2013年より農林中金全共連アセットで業務開発部長、のちに執行役員としてOMS導入や業務効率化を進め、複数期にわたり中期システム化計画を策定・推進。2025年6月退職、同年8月CIO Lounge入会。
