AIが「情報の解釈」を担う時代、私たちはどう対応すべきか

CIO Lounge正会員・飯泉 香

 私はこれまで、ITソリューションのマーケティングに携わってきました。多くの読者の皆様のように複雑な基幹システムを統轄し、また大規模な開発プロジェクトを率いた経験はなく、一貫してマーケティングの最前線で「情報をどう生み出し、どう届けるか」という課題に向き合ってきました。

 そんな私から見て今、マーケティングの世界で従来の常識を根底から覆すような地殻変動が起きています。過去、情報を運ぶメディアが紙からデジタルに移行し、情報の形式がテキスト、音声、動画へと多様化してきたのは、ご存じの通りです。ここで言う地殻変動は、それらの変化とは次元が異なります。

 「人間が情報に触れるプロセス」そのものが、AIというフィルターを介したものに書き換えられようとしているのです。今回は、最近注目されている「AIO(AI Optimization:AI最適化)」などを例に、AI時代の情報の在り方と、それが企業のシステム開発や運用にどのような変化をもたらすのかについて考察したいと思います。

消費者は「検索」を卒業し、AIに答えを委ね始めている

 これまでWebマーケティングの王道といえば、SEO(検索エンジン最適化)でした。ユーザーが自らキーワードを打ち込み、表示されたリンクの中から適切そうなものを自分で選んでクリックする。この「能動的な検索」が、過去20年以上の大原則でした。マーケティングする側は、自社のWebサイトが上位に表示されるよう、サイト構造を最適化する取り組みを行ってきました。

 今、ユーザーや消費者の行動は劇的に変わりつつあります。例えば、ネットスーパー大手の米Instacart(インスタカート)によるChatGPTを活用した「Ask Instacart」は、消費者の「今夜は子供が喜ぶタコスを作りたい」という相談に対し、レシピの提案や食材のリストアップをしてくれます。検索エンジンで「子供が喜ぶタコス」と入力し、いくつかのサイトからレシピや食材を探す手間はかかりません。AIの「解釈と提案」をそのまま受け入れることができるのです。

 一方で、AIが提示する正解にアテンションを奪われ続けるリスクには自覚的であるべきでしょう。AIが選別し、生成した情報に依存することは、その裏側にある文脈や多様な視点に触れる機会を失わせます。結果として人間が本来持つはずの「深く考えるプロセス」を弱めてしまう恐れがあります。それでもなお利便性を求める消費者は、“信頼できるAI”に答えを委ねるようになってきています。

 その結果として今、マーケティングの世界ではSEOに代わって、AIOやLLMO(Large Language Model Optimization:大規模言語モデル最適化)、そしてAIによる検索体験の最適化を指すGEO(Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化)が叫ばれるようになりました。AIに正しく解釈され、選ばれる「構造」を持たない情報は、顧客との接点さえ失ってしまう。そんな切実な変化が、今まさに起きています。

出版物もマニュアルもAIを介して「翻訳」される

 出版社や新聞社の方々はすでに認識されているはずですが、近い将来、ニュースや書籍、本記事のようなコラムでさえも、相当数の人々がAIを介して読むようになる可能性があります。著者が書いた文章を1字1句読み解くのではなく、ユーザーの好みや理解度に合わせてAIが要約したり、馴染みのある表現に書き換えたりして伝える。つまり、「AIによる再解釈」が情報の受け渡しに必ず介在するようになるのです。

 もちろん、1次情報に直接触れる大切さは変わりませんが、世の中の大多数の行動が利便性へと向かう流れは止められません。これからの私たちは、「自分の言葉がそのまま届く」ことを期待するのではなく、「AIに正しく解釈され、再構成されること」を前提に情報を設計しなければならなくなります。

 こうした変化は、マーケティング部門だけの話ではありません。企業情報システムを担う皆様の仕事にも、より深い部分で波及し、影響をもたらしていくはずです。特に、以下の3つの領域で「AIO的な発想」が大切になるのではないかと感じています。

(1)上流工程の変化:AIが即座に解釈・変換可能な「要件定義」へ

 今や基本設計やコーディングをAIが強力に支援する時代です。となれば上流工程の役割は「AIという最強のパートナーに、より正確な情報を渡し、いかに正しく意図を伝えるか」にシフトします。曖昧な自然言語における記述やプロンプトの工夫といった「問いの質」に留まらず、要件定義そのものが「AIが即座に解釈・変換可能な構造化データ」へと進化していく。いわば、システム開発の「上流の言葉」そのものがAIOを求められるようになるのではないでしょうか。

(2)利活用の促進:マニュアル不要の「伴走型システム」

 システムの利活用が進まない背景には、常に「使い方が分からない」という壁があります。しかし、AIOの発想を取り入れれば、ユーザーがシステムに向かって「この数字の出し方は?」と呟くだけで、AIが内部構造を瞬時に解釈し、操作をガイドしてくれます。マニュアルを「読ませる」のではなく、AIに「食わせて」おき、ユーザーに並走させる。こうした仕組みが、これからのシステムには不可欠になるのかもしれません。

(3)ユーザーリテラシーの変容:情報の「目利き」を育てる

 AIが情報を再解釈して伝えてくれるようになると、ユーザーには新しいリテラシーが求められます。それは「操作方法を覚えること」ではなく、「AIの解釈が正しいかどうかを判断し、適切な問いを立てる能力」です。システム部門の役割も、システムの整備や操作説明に留まらず、AIを使いこなし、情報の真偽を見極めるための「思考のトレーニング」を支援することへと変わっていくように思います。

情報の「形」が変わっても、想いを届けるために

 ここまでAIOの可能性について書いてきました。一方で情報をAIが扱いやすい形に構造化することは、裏を返せば意図しない解釈や、機密情報の不用意な露出を招くリスクも孕みます。マーケティングの現場でも「AIが勝手に自社ブランドを誤解して伝えてしまう」という、ハルシネーション(もっともらしい嘘)への懸念は絶えません。

 「AIガバナンス」という強固な土台があって初めて、「攻め」のAIOは実現します。これまで以上に緻密なガバナンスとセキュリティが必要になります。どの情報をAIに渡してよく、どの情報は守るべきか。その線引きと、AIの回答品質を管理する体制。これらはシステム部門の皆様の専門知見なしには、到底成し得ないものだと痛感しています。専門外の私からすれば、この新しい情報の海で、いかに「正しく、安全に」船を操るか。その指針を示してくださることを、心強く感じています。

 情報は、人に伝えるためにあります。その形は石板から紙、デジタルへ、デジタルはPCからAIへと時代とともに変わり続けてきました。AI時代の情報の在り方を考えることは、決してテクノロジーの話だけではありません。自分たちの会社の価値や知識を、新しい時代にどう適応させて届けていくかという、非常に人間味のある挑戦です。

 皆様の会社にある膨大なデータやシステム。それをAIという新しい翼に乗せて、より多くの社員や顧客へ届けるために。この機会に、情報の「伝え方」の設計図を、AIOという視点で見つめ直してみてはいかがでしょうか。

筆者プロフィール

飯泉 香(いいずみ かおり)

1993年日立工機(現 工機ホールディングス)に入社。その後、トレンドマイクロに転職。コーポレートコミュニケーションおける責任者としてコミュニケーションの意思決定に携わった。その後、同社執行役員マーケティング本部長として法人事業のマーケティング戦略立案・実行を担った。2023年からはウイングアーク1stの社外取締役を兼任。2025年トレンドマイクロを退社し、企業向けマーケティング全般の支援を行うiNext(アイネクスト)を開業。趣味は旅行とグルメ・ワイン、スキューバダイビング(ワイド派です。最近マクロの魅力にも気付き始めました)。