日本企業はIT化に向いていない?

CIO Lounge正会員・中島 健

米国と日本のシステムに対する考え方の違い

筆者:SAP ERPのユーザーインタフェース、日本人にはものすごく使いづらいですよね。なぜ米国でデファクトスタンダードになっているのでしょうか?

K氏:米国は人材の流動が激しいのです。経営陣は株主の期待に応えられないとすぐに辞職になりますし、従業員もいつ辞めるか分かりません。ですので自分たちのノウハウや想いを入れたシステムを1~2年かけてスクラッチで作り上げようという考えはないのです。SAP ERPならどの会社に移っても同じオペレーションで業務が回りますし、経営が見たい数値も見られます。こういうシステムの方が米国の企業環境、経営風土に合っているのです。

 この会話は2000年、私がSIer在籍時に米国シリコンバレーに出張した際、親会社である総合商社の、ITベンチャー投資部門のKマネジャーと交わしたものです。当時、私は基幹システム構築のPMとして、関西の中小製造業や卸売業向のプロジェクトを複数担当していました。エンドユーザーに業務内容を聞き、フローを作成し、課題を明らかにし、機能要件をまとめ、そこに対応できるシステムをスクラッチで開発・導入していました。それが当たり前でしたし、システムとはそういうものだと思い込んでいました。

 それから25年の歳月が流れました。人材の流動性とIT化は切っても切り離せません。高度成長期の日本で確立した三種の神器──「終身雇用」「年功序列賃金」「労働組合」は今も存在します。年功序列賃金については多くの企業が成果給やジョブ型雇用、若手や中堅などの早期登用などを推進し、よい意味で崩れつつあるのを実感します。終身雇用制や労働組合も昔ほどではありませんが、JTC(伝統的な日本企業)と言われる大手には色濃く残っています。

 こうした硬直的な雇用制度・組織構造が、システムに合わせた業務プロセスの変更(BPR)や自社内製化を拒む一因となっています。米国では導入の意思決定はもちろん、要件を決めるのも経営層など一部の人です。現場の意見は聞かずに導入が決まります。そのほうがドラスティックに改革ができ、IT導入効果も見えやすいのです。

何が日本のIT化を阻害しているのか

 日本ではどうでしょうか。長年、製造業を中心に現場で意見や知恵を出し合い、業務プロセスや品質を高め、効率を上げてきました。これは製造業に限らず、日本の他の産業にも共通するかもしれません。また日本人の気質にもあっていたのでしょう。このやり方をIT導入にも持ち込みました。それが実はIT化の阻害要因になっているのです。

 経営からは基本任せられ、かつ現場の意見を重視しすぎるがゆえに、常にオーダーメイドで作った、もしくは自社の現行業務に合わせたカスタマイズができるシステムを求める風土が出来上がってしまいます。そして要件を決める際には現場の業務を知る人、その製品や部門に長く携わっていた人の意見が通ります。中途半端な知識の上層部(部長・役員クラス)の意見にも振り回されます。

 「日本企業はスクラッチ開発が多いことは分かりました。それならなぜ、日本企業はITエンジニアを自社で雇わないのですか? システムインテグレータってなんですか?」

 これは2000年当時、米国ベンチャー企業の担当者に聞かれたことです。米国人から見るとカスタマイズを外注するのは不思議な状態に感じたようです。IT業界の構造については説明しましたが、聞き手が納得する本質的な回答は、当時の私にはできませんでした。

 25年以上たった現在でも、根本的に日本企業の組織風土や制度、考え方は大きくは変わっていません。結果として欧米や東南アジアの新興国の一部(シンガポールやマレーシアなど)と比較すると、産業全体の生産性や効率性、ITを使った業務改革、新サービスの開発など、国際競争力といった点で日本は下位に位置付けられる状態が定着しました。

 失われた30年と時期的に重なる部分が多く存在しますが、ではどうすればいいでしょうか? 「日本企業はIT化に向いていない」──何よりもまず、この不都合な真実を正面から再認識することこそが、真の変革に向けた第一歩となるはずです。

筆者プロフィール

中島 健(なかじま けん)

1968年生まれ、兵庫県伊丹市在住。SIerのPMを起点に、コンサルティングファーム(PwC等)や千趣会などを経て、現在はコーナン商事で執行役員 システム企画部長(子会社取締役兼務)。SI、コンサル、事業会社それぞれの経験と視点を活かしIT戦略・IT運営を推進。趣味はバイクツーリングや一人旅、ハイキング、キャンプ、お酒(焼酎、ウイスキー、日本酒)を楽しんでいます。