ITの徹底活用には「仲間づくり」が最重要

CIO Lounge正会員・黒田 勝也

 もはや言い尽くされた感もありますが、近年、ビジネス環境は急速に変化し、ITの役割はますます重要性を増しています。このような環境の中で、企業はITを徹底活用して経営改革、事業改革、業務改革を成功させる必要があります。そのためには技術だけでは不十分であり、むしろ「仲間づくり」こそが重要であると私は考えています。

 とはいうものの、以前からITを活用して効果を創出するためには、経営者、事業部門、IT部門の三位一体、一心同体という言葉が使われてきました。それと「仲間作り」はどう違うのでしょうか? 三位一体や一心同体という言葉を私なりに解釈し、ここ20年来、少しずつ内容を変えながら発信する中で、「仲間づくり」という言葉が一番しっくりきています。

 まずご紹介したいのが、松下電器産業(現パナソニック)の創業者である松下幸之助氏の言葉である「一番大切なのは、仲間(ファン)つくり」です(図1)。その真意は、「仲間づくりとは迎合して単に仲良しになるのではなく、相手との信頼関係を築くことにある」と解釈しています。

図1:松下幸之助氏の言葉

 顧客にファンになってもらおうとすれば、やみくもに顧客の要望を聞くだけではなく、自社の価値を伝えたり提案をしたりし、共感を得る姿勢が必要です。それと同様に、ITを提供する際には、単に経営層や事業部門の要望を受け入れるのではなく、私たちIT部門の正しい姿勢や価値を伝えることが最重要だと考えております。

 しかし仲間づくりは「言うは易く、行うは難し」の典型です。どうすればうまくいくか正解があるわけではありませんが、数々の失敗やそのリカバリーを支援していただいた多くの方々との協業する中で、私は次の3点が最重要だと考えるようになりました。まだまだ、私自身が合格点ではありませんので、たゆまなく深化の取り組みを進めています。

①価値観の共有と、違いを認め合う

 仲間づくりにおいては、価値観の共有が大切です(図2)。ただし価値観の共有とは、互いの価値観を一致させることではありません。違いを認め合いながら、お互いの良さを尊重し、共通の目標に向かって協力することがポイントです。互いの価値観を違いも含めて認識し合えば、取り組みのスピードアップも図ることができます。

図2:価値観の共有
②知らないことを教え合う、学び合う

 信頼関係を築くためには、困ったときに助けるだけでは不十分です。知らないことを教える・教えてもらうことを通じて、お互いの成長に向けて協働することが重要です。信頼は、助け合い、共に成長することで生まれるものだと考えております。ITの専門家であるIT部門は経営者や事業部門にとって「知らないことを教えてくれる人・組織」でありたいものです(図3)。

図3:人・組織のあり方
③「(やらないといけないと)わかっちゃいるけどできないこと」への対応

 私たちを取り巻く課題で、厄介な課題は「わかっちゃいるけどできないこと」です。これをクリアするにはチーム全体の知恵が必要です。まずは「わかっているができない」という課題の存在を認め合うことから始め、他責で押し付けるのではなく、1人で抱え込むのではなく、関係者が解決に向けて協働することが重要です。

 例えば、上記①・②は、多くの方がやらないといけないと理解しているはずです。しかし「実際にできているか?」を、絶えず自問自答しているかとなると話は別でしょう。それを行うには、何らかの仕組みや制度を取り入れる必要があります。

 最後にまとめます。ITを活用して経営改革を実現するためには、技術だけでなく「仲間づくり」が不可欠だと述べました。それにより私は、顧客との信頼関係や社内外のチームワークを強化し、異なる価値観を受け入れる姿勢を持つことが成功への道を切り拓く鍵だと理解できるようになりました。松下幸之助氏の言葉を胸に、ITの徹底活用により成果創出の加速ができるように、これからもITの徹底活用を通じて、さまざまなお困りごとを解決することを牽引していきたいと考えております。

筆者プロフィール

黒田 勝也(くろだ かつや)

兵庫県出身。1986年、松下電器産業(現パナソニック)入社。以来、社内のITシェアード会社、ロジステックス子会社、本社情報企画部、IT子会社などIT関連の仕事を経験。2016年に退職し、2017年には東京ガス入社。「DX/ITを活用したBPR」の立ち上げと推進担当を経て、2021年東京ガスiネット常務執行役員、現在に至る。趣味は街歩き。最近は「孤独のグルメ」で紹介されたお店の制覇に着手。