リーダーとしてどう振る舞うべきか

CIO Lounge正会員・柄 登志彦

私は1980年に土木技術者として建設会社に入社しました。2002年から社内のIT部署に異動し、2008年からは全社のITを担当することになりました。土木・技術部門では主にエンジニアとして、IT部門では主にマネジャーとして過ごし、社内とはいえ転職したくらいの環境の違いがありました。

 異動当初、特に驚いたのは業務の違いもさることながらマインドの違いでした。同じプロジェクトベースの業務ではあるものの、土木ではすべての工程で誤差を最小にしようとはせず、むしろある程度の誤差を許容して前進したのちに大きな誤差を修正します。最終的な成果品にもわずかな誤差は許容されています。

 一方、ITはいわば完璧主義で、すべての段階で誤差をなくそうとします。土木では品質と同じくらいスケジュール(工程)を守ることを第一に考え、ITでは品質を最優先にして成果品の1つのエラーも許さないことが関係しているのかもしれません。

 この違いについては改めて記すことにして、この記事では土木やITなどさまざまな部署や業務・人を経験する中で、折に触れて考えてきたリーダーの役割、あるいはリーダーとしての「ありよう」についてお伝えします。呼び方は上司やマネジャー、部長など複数ありますが、ここで言うリーダーとは「自分の周囲、あるいは集団に影響を及ぼすことができると集団のルールに定められている人」です。

 なおリーダーについて考えるきっかけは、常に私の失敗体験と関わっていました。先に述べた環境の違いからか、あるいは自分の成長度合いのせいか、私の大きな失敗は土木エンジニア時代の22年間に集中しています。土木とITは類似点も多いので、置き換えてお読みいただければ幸いです。

私の大失敗に直面した上司の発言とは?

 入社して1、2年経った頃、初めて大規模な設計計算とその図面を単独で任されました。道路の排水網の設計で計算自体は簡単なものでしたが、かなり大規模で、マンホールだけでも500個以上あるというものでした。設計が完了して施主に報告に行き、計算書の説明をしている最中に、先方の責任者の方から「そこ、数値がおかしくありませんか?」と指摘されました。

 直ちに計算式と数値を眺めた私は、重大なミスに気づきました。設計計算に使用した数式における「定数」を間違えていたのです。悪いことに排水能力が高くなる側に間違えていたので、正しく計算し直せば排水能力は低くなり、そのまま施工すると雨が降ると道路に水が溢れる可能性が高まるのです。私は頭が真っ白になって一言も言えなくなってしまいました。

 私は隣にいた上司を振り返りました。普段からとても厳しくいつも叱られてばかりの上司でしたが、この時ばかりは他に頼る術もありませんでした。上司はしばらく黙って私の目を見た後、私に代わってこう話しました。「確かにそこの数値は少し違っています。しかし設計は全体として大丈夫で、排水網の仕様は問題ありません」。

 実務経験の少ない私には、計算結果の違いがどの程度かを推測しようとしても無理でした。しかし上司は、即座に「この面積なら、この仕様でも大丈夫だろう」という判断を下したのだと思います。先方の責任者の方は「〇〇さんがそうおっしゃるのなら問題ないでしょう」と言って、その設計計算書を承認されました。

 会社に戻った後、上司から強烈に叱られつつ、「今日のうちにすべての計算をやり直せ。必要なら計算書と図面を修正し、明日一番で差し替えさせてもらって来い」と指示を受け、私はそのとおりにしました。幸いなことに初めての大規模な設計でしたので、すべての設計の安全率を高めにとっていました。つまり非経済的な設計をしていたのですが、結果的に再計算の結果はすべて安全率1以上であり、図面の訂正は不要でした。「排水網の仕様は問題ありません」という、上司の言葉どおりだったのです。

公の場で部下を決して見捨てない

 1人のエンジニアとしてミスをしないためにどうすればよかったか、いろいろ反省すべきところがあった経験なのですが、それ以上に上司の役割や資質に関することが強く響きました。当時の上司は自分の信用を賭けて未熟な部下(だった私)の尻拭いをし、「公の場で部下を決して見捨てない」ことを、身をもって実践してくれました。それ以降、このことは自分自身の目標とする姿の1つになっています。

 しかし、これはなかなか難しいことです。その後も似たような場面に何度も遭遇しましたが、他部署あるいは他社の人間の前で間違いを発見したときに部下を叱責する上司を多く見てきました。上司がすべきチェックのミスを部下のせいにする人も同様に少なくありません。そうだとしても、いや、そうだからこそ、「公の場で部下を決して見捨てない」のはリーダーの重要な役割だと思います。

 リーダーの役割はたくさんあり、なかでも仕事に関して迅速に正しい方向性を示すことは当然でしょう。その上で部下を育てること、周囲の人間に良い影響を与えること、ひいてはチームや組織を自律的な動きができるように育てることが大切です。外部の講師やコンサルタントでは無理で、内部のリーダーでないとできないことだからです。

 では部下を育てるには、どうすればよいでしょうか。技術や知識ではなく、人との接し方や未知の物事に対する心構え、判断や覚悟といったものを、実体験(部下にとっての)を通して身をもって教えるということではないでしょうか。IT・技術部門に限らず、これはとても大事なことだと思います。

筆者プロフィール

柄 登志彦(つか としひこ)

1980年、大成建設入社、専門は構造解析で土木部門の設計、作業所、技術開発、研究所を経た後、2007年にIT部門に異動。2008年から情報企画部長(システム子会社の大成情報システム社長を兼務)を務め、2017年にエグゼクティブ・フェロー(情報企画担当)、2023年からは土木本部顧問。趣味は音楽で、ロック、ヒップホップ、ポップス、クラシック、ジャズ、昭和の歌謡曲までオールジャンル。ギターとキーボードを練習中。