私の心がけている「C・I・O」とは

CIO Lounge正会員・上田 晃穂

2022年4月からCIO Loungeの正会員になりました上田晃穂です。関西電力のIT部門で仕事をしています。今回は私が日頃から意識していること、心がけていることを「C・I・O」にまとめて書かせていただきます。

Customer value(顧客価値)

 経営学の父と言われるピーター・ドラッカーは著書、「経営者に贈る5つの質問」で以下の5つの質問を読者に問いかけます。
1. われわれのミッションは何か?
2. われわれの顧客は誰か?
3. 顧客にとっての価値は何か?
4. われわれにとっての成果は何か?
5. われわれの計画は何か?

 5つの中でも大事なのが、2に出てくる顧客だと思っています。ここで顧客とは「満足させるべき人たち」全般を指すことに注意が必要です。商品・サービスを購入・利用していただく「直接の顧客」だけではなく、組織活動においてサポート・支援をしてくれるスタッフや社外パートナー企業など、「パートナーとしての顧客」も含むのです。

 ではIT部門にとっての顧客はどうでしょう?ITシステム・サービスを提供する経営層や業務主管部門、従業員、グループ会社に加え、活動のプロセスで一緒に働く上司・部下・同僚やパートナー企業も入ります。さらにはESG経営を進める上では、社会や地球環境も含むと捉えることができます。

 なぜなら「顧客とは満足させるべき人たち」だからです。このように顧客は多種多彩で、それぞれの欲求、要望・希望も様々であるため、仕事を進める上では最初の段階で顧客に「共感」することが大事だと考えています。

 一方、3の「顧客にとっての価値は何か?」にも顧客が出てきます。私は「価値」という言葉を使うとき、いつも「価値ピラミッド」を思い浮かべるようにしています。価値ピラミッドの具体例として、私が携わっていた格安スマホサービス「mineo」のそれを取り上げましょう(図1)。

図1:格安スマホ「mineo」の価値ピラミッド

 この図のように価値ピラミッドは、「機能的価値」「情緒的価値」「社会的価値」の3層から成ります。機能的価値は機能・品質やコスト・時間・労力削減など。顧客には主に「モノ」によって価値提供されます。一般的に競合他社から模倣されやすく、ある商品が機能的価値に強みを持っていたとしても、そのうち追いつかれて、差異化できなくなると言われます。

 情緒的価値は面白さ・物語性・不安の軽減といった感情に訴求するもの、社会的価値は自己実現や他者への奉仕、帰属・縁といった社会的な何かであり、顧客へは主に「コト」により価値提供されます。このように考えると、他社との差別化を図るには情緒的価値と社会的価値をいかに提供できるかが重要かが分かります。

 この価値ピラミッドの考え方は、一般的な商品・サービスだけでなく、IT部門の提供価値にも適用できると私は考えています。単にITシステム・ツールを提供するだけでは不十分であり、それらの意義や意図、利用から得られる副次的な利点なども、顧客に対する企画・提案・導入・運用のすべてのプロセスの中で訴求する必要があります。こうしたことを通じて情緒的・社会的価値を提供し、顧客にベネフィットを感じてもらって成果を出し続けることで、顧客からの信頼を獲得していくことが可能になります。

Information Technology(IT)

 私は約30年前に大学・大学院で情報工学を学んでいました。その頃にWindows95の発売やインターネットの爆発的な普及など情報技術の急速な進展を目の当たりにし、ITには世の中を劇的に変革する力があることを感じました。当時はまだ教科書の中の理論・概念に過ぎなかったクラウドコンピューティングやAIについても、今や実際の導入や実用化が急速に進み、仕事や生活の中で利活用されていく様子を目の当たりにすると、大変感慨深いものがあります。

 このような現状において、IT活用やDX推進により業務効率化や生産性向上、価値創出を実現していく際、私は、「ITの導入自体が目的化しない」ように常に心がけています。つまりITやデジタル技術はあくまでも道具であって、解決したい経営課題、業務課題は一体何か、それによってどのような価値を創出し、どのような成果の生み出すのかが大切であるということです。これを式で表すと

  経営・業務課題 ×  IT → 価値 → 成果

となります。さまざまな事象の中で焦点を当てて注目すべきことは「課題・価値・成果」であり、あくまで「ITは道具」であるということです。

 道具であるITは、その使い方によって強力な「武器」にもなりますが、時には使われずに「ゴミ」にもなってしまいます。これらの実態を踏まえると、ITを導入する際には、この「道具としてIT」を使う目的や意義を明確にし、ITで可能になる「仕組み」や、使いたくなる「仕掛け」を盛り込んで武器としてのITに磨き上げていくといった工夫も必要であると考えています。

Only One(オンリーワン)

 書籍「ビジョナリー・カンパニー2」には「針鼠の概念」という考え方が出てきます。要約すると、①情熱をもって取り組めるもの、②自社が世界一になれるもの、③経済的競争力を強化するもの、という3つの円があり、「偉大な企業」は円が重なる中心の部分に集中します。(図2)これに対し「良い企業」は、3つの円に含まれる様々なことに取り組む結果、自らのエネルギーを分散させ、どの事業も悪くはないが、それほど良くもない状況になります。

図2:針鼠の概念

 この「針鼠の概念」の3つの円は、キャリア形成でよく用いられる「Will(やりたいこと)、Can(できること)、Must(やるべきこと)」のフレームワークに置き換えることができます。理想的すぎると言われるかもしれませんが、個人としても、自身の所属部門・会社としても、すべてが重なる中心領域に集中できれば成功確率は高まります。同時に、3つの円の重なりを少しでも大きくできるよう、常に高みを目指すことも大切です。

 以上、私の心がけている「C・I・O」について説明させていただきました。正直に言えば、どれひとつとっても簡単ではありません。環境変化や技術の進化はあまりにも速く、さまざまな顧客のニーズは相反するものばかりです。それに伴う調整事や日々の忙しさにかまけて、ついついC・I・Oを忘れがちになります。この記事をきっかけにして常にこれらを念頭に置くことを意識し、今後も努力、研鑽を続けていきたいと思います。

筆者プロフィール

上田 晃穂(うえだ あきお)

1997年関西電力株式会社入社。2016年ケイ・オプティコム(現オプテージ)へ出向し、格安スマホmineoの事業責任者。2021年から関西電力 IT戦略室 IT企画部長(現職)。趣味は資格取得(「技術士」「中小企業診断士」等50資格保有)、読書(ビジネス書1400冊所蔵)、日本酒(42道府県138ブランド中の1位は「獺祭磨き2割3分」)