変革の主語はシステムではなく、人である

CIO Lounge正会員・黒田 恭司

コロナ禍は「これまでの常識を見直す機会」に

 私は2023年にJTBに入社し、CIO/CISOとしてデジタルトランスフォーメーションの推進を担っています。その前は30年以上にわたり日本IBMに在籍し、システム開発やプロジェクトマネジメント、サービス事業、クラウド変革、人材育成など、多くの仕事に携わりました。

 振り返ると常に私のキャリアの中心にあったのは、「テクノロジーそのもの」ではなく、「変化を実現すること」だったように思います。それはどういうことか、現在、JTBで進めている仕事を紹介しながら説明します。

 さて、2020年に世界を大混乱に陥れたコロナ禍は、まだ記憶に新しいところでしょう。旅行業界は甚大な打撃を受け、JTBも存亡の危機と言える状況でした。このような中で、私は危機への対応を、単に業績回復に向けた取り組みとして捉えるのではなく、「これまでの常識を見直す絶好の機会」と考えました。

 多くの企業がDXを推進していますが、実際には「既存業務のデジタル化」で終わってしまうケースが少なくありません。その大きな理由の1つが、システム刷新や新しいデジタル技術の導入自体が目的になってしまうことです。DXとは本来、デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化そのものを変革する活動です。その上で事業を変えることが目的でなければなりません。

 そこで入社以来、私は「ビジネス・組織・システムは三位一体で変えなければならない」と、繰り返し伝えてきました。組織を変えても、支えるデジタル基盤がなければ持続性が生まれません。最新のシステムや評判のツールを導入しても、組織や意思決定の仕組みが変わらなければ成果は限定的です。どれか1つだけでは変革は成立しないのです。

プロジェクト成功のカギは、意識の全体共有にある

 JTBは現在、基幹システム刷新やインフラのモダナイゼーション、データ活用基盤の強化など、多くの大型プロジェクトを進めています。その中で私が最も重視しているのは「なぜそれを行うのか」という目的を、常に組織全体で共有することです。時間の経過とともに目的への意識は薄れ、QCDへの意識ばかりが強まるのが常です。それでは変革プロジェクトは上手くいきません。変革の目的を理解し、自分事として捉えてもらうことこそが成功のカギだからです。

 そのための施策として、JTBではIT部門だけで計画を策定するのではなく、事業部門のメンバーと議論を重ねながら、将来の業務や顧客体験のあるべき姿を描くことに力を入れています。時には現場との認識の違いや、変化を不安視する声に直面することもあります。しかし対話を繰り返し、一人ひとりが変革の意義を理解することで、プロジェクトは単なるシステム導入ではなく、組織全体の挑戦へと変わっていくと考えています。

AIの変化に適応できる組織になるために

 一方、最近では生成AIの急速な進化により、企業を取り巻く環境が大きく変わり始めています。読者の皆様も同じだと思いますが、私は生成AIを効率化のツールではなく、人の能力を拡張し、新しい価値創造を可能にするパートナーであると考えています。この技術にはそれほどのインパクトがあります。

 しかし当然ですが、AIを導入すれば自動的に競争力が向上するわけではありません。経営層はAIがもたらす変化の方向性を示し、社員一人ひとりはAIと共に働く未来を主体的に考えて行動しなければなりません。これまで以上に「変化に適応できる組織」と「変化を避ける組織」の差が拡大し、人の面でも「AIを使う人」と「AIに仕事を奪われる人」の違いが顕著になると考えられるからです。

 私見ですが、CIOの役割も大きく変わっていると思います。以前は情報システムの責任者としての役割が中心でした。現在は、経営戦略を実現するための変革リーダーであることが求められています。技術を理解するだけでなく、事業を理解し、人を動かし、組織文化を変えていくことがこれからのCIOのミッションです。

 最後に、私がこれまでのキャリアを通じて大切にしてきた言葉があります。それが本記事のタイトルにした、「変革の主語はシステムではなく、人である」です。どれほど優れた技術であっても、活かすのは人です。変化を恐れず挑戦する人がいて、初めて変革は実現します。これからもCIO/CISOとして、そして一人の変革推進者として、人とテクノロジーをつなぎながら、新しい価値創造に挑戦していきたいと思います。

筆者プロフィール

黒田 恭司(くろだ きょうじ)

JTB 常務執行役員 兼 CIO 兼 CISO デジタルトランスフォーメーション推進担当。1992年日本IBMへ入社。ITエンジニアとして官公庁を担当し、グループリーダーやプロジェクトマネージャー、統括プロジェクトマネージャーを歴任。その後、デリバリー品質マネジメント、コロナ禍の働き方変革リード、全社リスキリングのリーダー、Hybrid Cloud事業のサービス部門のビジネス責任者などを担ってきた。2023年から現職。趣味はゴルフ、釣り。